
日本の建築は海外のそれとはまったく異なる形で発展し、独特の建築技法も多く生まれました。瓦屋根も日本建築の特徴の一つで、湿度が高い環境でも快適な生活を送ることが出来、台風などの悪天候によって壊れても、瓦を交換することですぐに修復が可能など、様々なメリットを持っていますが、そうした実用性だけが進化したわけではなく、独特の技法によって変わったデザインの瓦が作られるようにもなり、現在も古い建築物などで目にすることが出来ます。甲州鬼面瓦もその一つで、鬼をかたどった特徴的なデザインは、見る人に強い印象を与えます。
甲州鬼面瓦とは
甲州鬼面瓦とは、瓦の素材に独自の技法で鬼の顔をかたどって焼き上げた瓦で、守り神の一種として飾られていました。発祥は数百年前からといわれ、江戸時代に入るころには製造技術の発展によって生産数が増加し、様々な地域に広まるとともに、お城の屋根に使われる瓦として採用されるなど、当時から重要な産業の一つとして広く知られていたといいます。その特徴は独特な見た目にあり、すべて手作りで鬼の顔を作っていくので、同じような顔を作ってもどこか違う点が見られ、作り手によって表情のつけ方もまったく異なります。使用されている素材も一般的な瓦と比べて耐久性に優れており、長く使われることを想定した建築物に使われる素材として申し分ない品質を持っています。現在は西洋風の建築物が多く、瓦が実際に使われることは少なくなっていますが、現存する日本建築の補修に使われ、お土産用に作られた小さな鬼面瓦なども作られています。
長く使える菊間瓦
甲州鬼面瓦は、瓦の製法によって品質に大きな違いが現れます。中でも菊間瓦は長く使える瓦として知られており、様々な建築物に使われてきた実績を持っています。菊間瓦は一般的な瓦よりも様々な面に優れており、純粋な耐久度はもちろん、防水性も高いことから水による屋根の劣化を食い止めることが出来たり、断熱性の高さで室内の温度を可能な限りキープし、太陽光による室温の上昇を食い止める効果があったりと、高温多湿の日本の夏の気候に適した瓦となっています。また焼きあがった菊間瓦はいぶし銀と呼ばれるシックな色合いになるため、一般的な瓦と比べても屋根の色合いが大きく変わり、渋滞の魅力をより引き出す効果があるといいます。もちろん菊間瓦で作られた甲州鬼面瓦の作りはすばらしく、その見た目もさることながら、瓦特有の実用性も含めて非常に優れた鬼面瓦として評価されています。
守り神としての鬼面瓦
鬼面瓦は鬼と呼ばれる日本の伝説上の生き物をかたどった瓦です。見た目は角と牙が生えた怪物といったところですが、日本には鬼にまつわる伝承が古くから残されており、全国各地に独自の鬼の伝説が残されているといわれています。中には人に災いを与える鬼もありますが、そうした鬼がどうして守り神として使われているかというと、こうした文化はシルクロード経由で伝えられた考え方が普及した結果といわれており、パルミラで見られた入り口にメドゥーサの首を象った魔よけを設置するのを参考にした結果、鬼を象ることで魔よけにする鬼面瓦が誕生したと思われます。
衰退の危機
日本の伝統工芸品の一つとして高い知名度を持っている甲州鬼面瓦ですが、実は衰退の危機に瀕したこともありました。日本建築に使われる瓦ですが、第二次世界大戦以降は西洋の生活スタイルが根付くようになっていき、昔ながらの瓦を使う屋根が激減したことにより、鬼面瓦を製作する機会もどんどん失われていったといいます。さらに職人の高齢化や新たに仕事を始める若者が激減したことによって、平成元年(1989年)には鬼面瓦の製作を行う工房が一つもなくなってしまい、本当に甲州鬼面瓦が衰退してしまうところまで事態が悪化してしまいました。その後は当時の技術を後世に伝えるために改めて甲州鬼面瓦を作る取り組みが行われるようになった結果、今では日本の代表的な伝統工芸品の一つとして名前が知られるようになりました。
手軽に購入できる品も
今でこそ伝統的な日本家屋を新たに建てる方は減りましたが、甲州鬼面瓦はまだまだ生産を続けています。かつて甲州鬼面瓦を使用していた住宅の修理のために、もう一度甲州鬼面瓦を製作する人も少なくありませんし、手軽に購入できる品を製作して、お土産として売り出すことも増えました。お土産用の商品には、通常は屋根に取り付けて使用するものを、オブジェのように置けるような形に製作したり、手のひらに収まるような小さい鬼面瓦を販売する業者がいたりと、かつては屋根の材料として使われていただけだった甲州鬼面瓦も、今では多種多様なバリエーションが求められるようになり、人気のある商品は地元のお土産として数多く販売されています。最近は海外人気も高まりつつあり、数多くの商品が作られ、どれも高い人気を集めています。
甲州鬼面瓦にしても菊間瓦にしても、実際に住宅に使われる機会は減ってしまいましたが、お土産の品として人気を集めるようになったり、現存する日本の建築物の補修に使われたりと、形は変わってもいまだに日本の文化として愛されています。工房によっては観光客向けに実際に鬼面瓦の製作を体験するコーナーもあるので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。
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