和装には履物の伝統工芸『下駄(げた)』


下駄はつい数十年前まで日常生活の中で使われていた日本の伝統的な履物です。現代の日本では和装が減り、スニーカーやサンダルのような軽くて歩きやすい履物が主流となり、祭会場や温泉街など限定的な場所でしか見る機会が少なくなりましたが、独特のデザインや歩く時にカランコロンと鳴る音が良いと若者から注目され、その人気も回復しつつあります。

下駄1

 

下駄の歴史

下駄が庶民の履物として広まったのは平安時代からで、それまでは身分の高い限られた者のみが履いていました。その後江戸時代になると、台の塗りや緒を美しく加工した華美な下駄が庶民の贅沢品として流行します。明治時代に入ると西洋の文化が流入したことにより、履物の主流は下駄や草履から洋靴へと移ります。明治3年に日本で最初の靴工場ができ、靴の流通量が増えるに従い下駄の文化は衰退していきます。現在では夏の浴衣に合わせることが多く、一般的な履物として姿を見る機会は減っています。

また、一般的な履物ではなく農具としての下駄の歴史は古く、稲作が日本に伝わってきた弥生時代後期の遺跡からも見つかっています。ぬかるんだ場所でも足を沈みにくくさせ、効率よく作業ができる「田下駄」は改良を重ねながら昭和時代まで利用されていました。

田下駄1

田下駄

 

下駄の構造

下駄は台、歯、緒の3つのパーツでできています。足を乗せる部分が台で、素材には桐や杉が使われています。台には前側に一箇所、後側に二箇所、緒を通すための眼と呼ばれる穴が開けられています。

台の下に付いている部分が歯です。通常は前後に2つ付いていますが、1つの物や3つの物もあり、1つの物は天狗や山の中で修行を行う山伏という人々が履いているイメージが強くあります。また、歯が無い物もあります。

緒は足指の間に挟み、足の甲と台を固定する紐で、古くは麻やシュロ、わらなどを布で覆って作っていましたが、現在では中身はボール紙やウレタンスポンジなどが利用されています。鼻緒とも呼ばれます。

 

下駄と草履の違い

下駄と共に近代まで庶民の履物として利用されていた物に草履があります。草履はわらやイグサを編んで作る物の他に現在ではビニールやゴムで作られた物も出回っています。下駄と草履の大きな違いは、下駄は木製であるという点です。形だけで言えば下駄には歯があり草履は歯が無い物と判断されがちですが、草履のような形状をした「舟形」、台の底が内側になだらかなカーブを描く「右近」など高さが低く歯の無い種類の下駄もあります。

右近

右近

右近

右近(女性用)

 

下駄で足が痛くなる原因とは

普段履きなれない下駄を急に履くと、指の間に豆ができたり足を痛めてしまうことがあります。その原因の多くは下駄が合っていない、正しい歩き方ができていないことにあります。昔下駄は専門店でサイズを測り、オーダーメイドで作ることが一般的でした。しかし現在では夏の浴衣を着るシーズンになれば通信販売や靴屋で購入することが圧倒的に多く、また下駄を履く機会が少ないことで自分に合う下駄を知らないという人も増えています。

 

足が痛くなりにくい下駄選び

一番確実な方法は下駄屋さんで自分の足に合うものをオーダーする方法ですが、下駄屋さんに行けない場合は以下のポイントに注目して選んでみてください。下駄で足を痛めないためのポイントは大きく3つあります。

 

1:台の選び方

下駄の台には様々な形状があります。一般的に知られている形が前後に二枚の歯がついた「駒下駄(こまげた)」です。駒下駄の中にも幅の広さなどで細かな種類がありますが、前に倒すようにして歩く下駄本来の歩き方ならば、高さが高い駒下駄は歯を倒しやすく歩きやすいのです。しかし、靴に慣れてしまった人には下駄特有の歩き方が難しく感じられるかもしれません。高さが低く歯が無い、草履のような形状の「右近」は地面に接する面積が広く安定感があるためサンダルのような感覚で履くことができます。しかし引き摺るような歩き方になりやすく、それを好まない人もいます。

下駄を試し履きする際は、足の指を緒にかけた時に奥まで足を入れず、緒と指の股の間に少しだけ隙間を作ります。この状態で、踵が2~3センチ程度はみ出る大きさがちょうど良いサイズです。足が台に収まる物は大きすぎで、疲れる原因になります。

駒下駄

駒下駄

 

2:緒の選び方

緒は太くてやわらかい物を選びましょう。太い緒は一箇所にかかる体重を分散してくれます。緒は摘んでみてやわらかく、弾力性のある物を選びましょう。素材は綿やウレタンスポンジが適しています。また、緒が二本に分かれている物も体重を分散してくれます。二本のタイプはデザイン上一本あたりが細いため硬い素材を使われることがありますが、その場合は揉んでやわらかくしてから使うと良いです。また、緒の足指をかける部分である前坪(まえつぼ)はビニール製より布製の物が擦れを軽減してくれます。

 

3:歩き方

下駄で歩く時に重要なのは重心を前にかけ、やや前のめりに歩くことです。靴を履いている時と同じように踵で着地をすると指先が擦れやすく、足を痛める原因になります。歩幅は小さめに取り、下駄をまっすぐ下ろしてから体重を前方へ移動させます。左右交互に足を出すと、カランコロンと良い音が響きます。靴を履き慣れていると前方への重心移動に慣れないかもしれませんが、歩き方次第で足への負担は大きく変わります。

環境の変化により衣服やそれに合わせる服飾品も大きな変容を遂げてきました。しかし近年は日本国内でも着物や浴衣を伝統的で新しさもあるファッションとして肯定的に捉えられつつあります。若者を中心に和装文化は伝統と新たな物を取り入れながら、今後も進化を遂げる可能性を秘めています。

(noren Ichiro)

日本刀 玉鋼の製法


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