
暑い季節になると活躍するのが扇子(せんす)と団扇(うちわ)です。日本では夏場に街を歩いていると様々なキャンペーンやお祭などで団扇を配っています。納涼グッズとしてだけでなく、広告としての役割も果たす団扇の一方で、扇子はそのような使い方はされません。現在では百円均一ショップでも販売されるようになりましたが、デパートなどで販売されている通常の扇子はそれなりのお値段がします。扇子と団扇、似ているようで異なる二つの道具を紹介します。
扇子と団扇の違い
扇子と団扇の大きな違いは形状です。扇子は使わないときは折りたため、携帯しやすい形状をしています。一方の団扇は長い持ち手があり、その上に大きく広がる風を起こす部分が付いています。持ち手が無く、丸い紙の下部に穴を開けて指を通して使うタイプもあります。団扇の素材は竹やプラスチックの骨に紙が張られたものか、紙を丸くくりぬいたものが大半です。団扇の団という漢字には「丸い」という意味が、扇には「扇(あお)ぐ」という意味があるため、団扇という言葉の中には「丸い形状をした扇ぐもの」という意味が当てられています。中には折りたたんで携帯できる団扇もありますが、扇子と団扇の違いはその形状にあると見て良いでしょう。
扇子と団扇の歴史
日本における扇子と団扇の歴史は、団扇の方が古く、弥生時代や古墳時代の遺跡からも団扇の原型となるものが発掘されています。団扇は古代エジプトや中国でも使われており、それが日本に伝わってきた物と考えられています。当時は扇ぐ道具ではなく儀式の道具として使われていました。中世に入ると、貴族や僧の間で威厳を見せるための道具として文様を付けたり鳥の羽を飾るなどした豪華で大きい団扇が用いられていました。団扇が竹などの骨に紙を貼り付けた現在のような形状になるのは室町時代の頃と言われています。
一方の扇子は、団扇が日本に伝わってきてから100年くらい後に、折りたたんで持ち運べるようにと作られた日本独自の道具です。平安時代の中頃までには既に扇子の原型となるものが存在していました。すなわち、扇子は団扇を元にして作られたものになります。中国から伝わった団扇から日本で扇子が生まれ、そしてその扇子が輸出され世界中へと伝わっていきます。
扇子の構造
扇子は大きくわけて骨または扇骨(せんこつ)、扇面、要の三つで構成されています。骨は竹や木などでできており、数本から数十本が束ねられて開閉できるよう作られています。一番外側の太い部分の骨を「親骨」、内側の骨を「中骨」と呼びます。扇面は扇の風を送る部分で、素材には「糊地(のりじ)」という和紙や布などを貼ります。扇子が開閉できるよう骨を根元で止めている部分が要です。この部分が壊れてしまうと扇子として使い物にならなくなる重要な部分です。
さまざまな扇子
扇子には一般的に扇ぐためのものだけでなく、様々な種類のものが存在します。日本舞踊や歌舞伎で使われる舞扇、鉄製で閉じた扇子を模した護身具としての鉄扇の他、ヨーロッパで作られたものは洋扇と呼ばれています。フラメンコで使われる大きな扇も日本の扇子を元に作られたという説があります。羽根扇子は日本の宝塚歌劇団で見られるゴージャスな羽根付きの扇子で、舞台の華やかさを際立たせます。バブルの時代にはカラフルで大きな羽根扇子を持ってディスコで踊る若い女性たちもいました。
伝統芸能の中で役割を持つ扇子
日本の伝統芸能の中で、扇子はさまざまな役割を果たしています。最もイメージしやすいものが、日本舞踊や能狂言、歌舞伎です。能では舞台に立つ人は役者以外の裏方も含め全員が扇子を持っています。柄は役によって細かい決まりがあり、演目によって使い分けます。能の中での扇子は、ただ扇ぐための道具としてではなく、物を眺める仕草や感情を表す仕草など、表現をより豊かにするための小道具として重要な役割を果たしています。
落語で使われる扇子は、使い方によって具体的な道具を連想させます。左手で椀を持つジェスチャーをしながら畳んだ扇子を右手で持ち、勢い良くすする音を立てれば扇子が箸を表し、蕎麦かうどんを食べる様子だとわかります。酒を注ぐ銚子の他、刀や望遠鏡など様々な道具を表す小道具として落語に扇子は欠かせません。
少し変わった使い方をするのが将棋や囲碁です。扇子を手で開け閉めする時に出るパチパチという音でリズムを取り、そのリズムに合わせて先の手を考えるために持ち込まれます。この音は対局相手にも影響を及ぼすため、極力自分の考える時間にのみ行うことが礼儀とされています。
大陸から伝わってきた団扇が日本で独自に進化したものが扇子です。海外の文化を取り入れ、蒸し暑い日本の夏をより快適に過ごそうとした昔の人の知恵が今もなお受け継がれています。扇子の機能性と芸術性は日本だけでなく海外でも評価されています。日本の文化として今後も残していきたい一品です。
(noren Ichiro)
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