
様々な色の木材を組み合わせ、まるでパッチワークのような繊細な模様をつくりだす寄木細工(よせぎざいく)。日本では箱根が寄木細工の生産地として有名で、日本のお正月の恒例行事である箱根駅伝(正式名称は東京箱根間往復大学駅伝競走)のトロフィーにも使われています。日本の職人らしい細やかな技術が光る寄木細工について紹介します。
寄木細工の歴史
寄木細工の始まりは17世紀半ば、現在の静岡県で作られるようになりました。その後江戸時代後期にその技術が箱根に持ち込まれ、更なる飛躍を迎えます。箱根は国内でも木の種類が多い地域で、古くから木工製品の製作が盛んでした。箱根に寄木細工が伝わる頃には既に箱根地方は温泉の湯治客で賑わい、土産物として大変な人気が出ます。江戸時代末期から明治にかけて日本が開国すると箱根の寄木細工は静岡の下田港や神奈川の横浜港から海外へと輸出されました。寄木細工の技術も江戸時代より更に進化し複雑な模様を作り出すようになります。その後、職人の減少など衰退することもありましたが、1984年には厳しい審査を通り、伝統的工芸品の指定を受けます。
寄木細工に使われる木の種類
整然とした美しさのある市松模様や、縁起物の亀の甲羅を模した亀甲、古くからある伝統的な模様で魔除けの意味を持つ麻の葉など、寄木細工の模様には多くのパターンが存在しています。これらを描くための木材は、木が本来持っている鮮やかな色を活かし、複数の種類の中から選んで組み合わされています。
白系の素材にはあおはだ、まゆみ、みずきなど、茶系の素材にはかつら、くるみなどを用いる他に、灰色や緑、赤、黒など多彩な色の材木が使われます。現在では国産のものだけではなく、外国産の木も利用され、より複雑で美しい作品が作り出されています。
寄木細工の作り方
寄木細工はその名前の通り複数の木材を寄せ合って作り上げる工芸品です。美しく規則正しい幾何学模様を描くためには非常に繊細な技術を要します。箱物などの寄木細工で使われる「ズク物」の作り方を紹介します。
1.まずは、材料となる木を決まった厚さ、大きさに切り出します。
2.薄い板状にした木材を模様の配色に合わせて重ねたら、接着剤となる膠(にかわ)を塗り、プレス機で圧着させます。
3.出来上がった板を細く切り出し、型にはめて余計な部分を鉋(かんな)で削って大きさを揃えます。
4.大きさが揃えられた木片を模様に合わせて接着し、動かないように固定して接着剤を乾かします。
5.出来上がった複数のパーツを集め、並べて模様を描いたら接着し、1枚の板のようにします。これを「種木」と呼びます。
6.鉋(かんな)で種木の表面を1枚ずつ薄く削り出します。出来上がった薄い板のことを「ズク」と呼び、厚さは紙のように薄いですが、木が持つ特有の温かみが感じられます。
7.出来上がった「ズク」をアイロンで伸ばし、小箱などの材料になる木材の表面に接着し、組み立てると完成です。
この他に、種木をろくろで削り出して器などを作り出す「無垢(むく)もの」という技法もあります。
寄木細工の作品たち
現在、寄木細工の商品には日用品として使われるお盆や茶筒、食器の他に秘密箱と呼ばれる伝統的な小箱があります。秘密箱は一見するとフタも開け口もないただの四角い箱に見えますが、箱の面を順番どおりにスライドさせるとフタが開く仕掛けがあります。フタをスライドさせる回数も4回や7回、12回などがあり、初めて見た人ではどうやって開けたらいいのかも戸惑うほど精巧なつくりをしています。また、洋室に置いてもマッチするティッシュケースやくず入れ、お洒落な財布や名刺入れなどもあり幅広い世代で使うことができます。
伝統的な手法や柄を残しながらも、現在では若手の職人さんによって新たな商品や柄の開発が盛んに行われており、今の暮らしに合わせた作品も発表され続けています。また、実際に寄木細工を体験できる工房もあり、コースターなど世界にひとつのオリジナル作品を作ることもできます。木の持つあたたかさに触れ、ものづくりの楽しさを体験してみてはいかがでしょうか。
(noren Ichiro)
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