
日本では様々な筆記具が使われていますが、その始まりは中国から伝わった筆といわれています。筆が日本で作られるようになったのは700年代ごろといわれており、その後は日本全国に広まりながら、独自の進化を遂げていったといいます。現在でも有名な筆の生産を行う地域は各所に見られ、文字を書くだけでなく、化粧や絵画といった分野でも活躍しています。海外でも日本の筆の人気は高く、お土産として親しまれていますが、日本の筆にはどのような種類があるのでしょうか。
熊野筆
熊野筆は広島県で生産されている筆で、江戸時代に出稼ぎに行っていた農民が学んだ筆の製作技術を元に、地元の木材などを使って作られるようになったといわれています。明治時代に入り、教育が義務化されたことによってさらに需要が増加し、当時の広島県の主要産業として発展するとともに、絵筆や化粧筆の生産も合わせて行われるようになるなど、その後も発展を続けることとなりましたが、鉛筆やペンなど、様々な筆記具が増えるに連れて生産量は減少するようになり、昨今では後継者不足も問題視されるようになって来ていますが、ベテランの職人が一から手作業で作る筆の書き心地は大量生産される安物とは比較になりません。
豊橋筆
豊橋筆は愛知県などで生産される筆です。筆は元々筆記具として使われていたもので、豊橋筆は筆記具としての使い心地にこだわって作られた筆として高く評価されています。日本で活躍する書道家の多くは豊橋筆を愛用しているとも言われており、書道家向けの高級筆の八割が豊橋筆という調査結果が出たという話もあります。その特徴は練り混ぜと呼ばれる作業工程にあり、原材料の混毛に水を加えて混ぜ合わせることにより、墨をより大量に含み、長い間墨が筆の中に残る筆に仕上がります。そのほかの作業も手作業で行うため、作られる本数は決して多くはありませんし、販売価格も安いとはいえませんが、それだけの書き心地はあると、多くの方が愛用しています。
奈良筆
奈良筆は奈良県で生産されている筆で、特に古くから使われていた筆といわれています。奈良県は筆作り発祥の地といわれており、奈良筆の名称がつけられた筆はどれも優れた書き心地を持っています。奈良筆はひらがなに多い曲線を書くのに優れており、10数種類の動物の毛を組み合わせ、それぞれの動物の毛の特性を生かしてバランスを取ることで、美しい曲線を引けるよう担っています。もちろん動物の毛はすべて同じというわけではなく、一本一本形の癖が異なるので、作成中は常にバランス調整を行う必要があり、そのせいですべて手作りで生産しなければなりません。それだけ手間隙がかかっている筆を作る工房も最近は数を減らしているといいますが、日本の伝統文化を後世に残すために、若者の育成も積極的に行い、現在も変わらず優れた筆を世に送り出しています。
雲平筆
雲平筆は今から400年ほど前から京都で作られるようになった筆で、皇室の儀式などで使われる筆を賜るなど、日本の歴史において重要な出来事にも深くかかわっています。そうした場で使われる筆ということもあり、どの製品も非常に優れた書き心地で、現在も色々な筆が作られています。雲平筆の特徴に巻筆と呼ばれる製作法があり、筆先の芯となる芯毛に上毛と呼ばれる毛を巻きつけることで強い筆先のコシと弾力を生みだすことで、力強い線を引くことが出来るようになります。そのため力強い線を引きたい書道家などに人気があります。さらに使用目的に応じて最も適した筆を選ぶことが出来るように、毛の巻き方や仕上がりの形状などに応じて、様々なバリエーションが用意されているのも大きな特徴の一つです。
江戸筆
江戸筆はその名の通りかつての東京にあたる江戸で作られた筆です。当時日本の首都であった江戸では、商売のために読み書きを学ぶ人が急増し、子どもにも積極的に勉強をさせる習慣が付くようになったことから、勉強のための筆記具が多く作られるようになりました。それが江戸筆が生まれるきっかけとなり、地方から出稼ぎに来た人が江戸で筆の作り方を学び、自分の故郷に戻った後にその地方の木や動物の毛などで作った筆を売るようになるなど、日本の各地方で見られる筆を生み出すきっかけにもなりました。明治時代以降に西洋文化が浸透することで筆の出番は少なくなってきますが、それでも書道は教養を身につけるための勉強として残り続け、筆で字を書く習慣も少なからず残ったため、江戸筆も職人こそ少なくなったものの、日本の伝統文化の一つとして残り続けています。
日本全国で見られる筆は、いずれも海外で見られる筆よりも書きやすく、何年も使い続けることが出来るといわれています。最近は外国人観光客のお土産として販売されるようになるなど、今までになかった形で売り出す動きも見えつつあります。絵筆や化粧筆は海外でも使われる製品なので、そうした道具を日常的に使っているという方には、日本の筆をお土産にしてみてはいかがでしょうか?
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