
2004年にノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイが提唱した「もったいない」という言葉は、日本で古くから伝わる考え方のひとつです。物が無くなるのを惜しみ、少しでも長く物を使い続けるよう戒めるための言葉として使われている言葉で、その考えは様々な形で人々の間に伝わってきました。その伝え方の一つが日本の妖怪の一つである付喪神の言い伝えで、物を少しでも長く使うように様々なお話が考案されたといわれています。
※画像は、雨降り小僧
長く使ったものが神に
付喪神が誕生する経緯には、日本の宗教に対する考え方が大きく影響しています。日本の宗教観はアニミズムに近い考えが古くから根付いており、万物に神が宿り、多くの神々が存在するという考えが信じられてきました。そのため物もいずれは神になるとされており、その区切りとして100年間物を使うことで、神になるという俗説があったといいます。付喪神が生まれるのはその考えが元からあったことと、付喪神伝説が生まれた時代の考え方が大きく影響したのではないかといわれています。付喪神が生まれた時代は日本では室町時代と呼ばれており、新しい技術がどんどん生まれて、古いものが捨てられやすい時代でした。そうした古いものをないがしろにする考えが浸透するのを防ぐために、物を大切にしないと付喪神が表れて、災いをもたらすといわれるようになりました。百鬼夜行絵巻と呼ばれる物語では、道具をモチーフにした妖怪の姿が数多く描かれ、その後に作られた付喪神絵巻で、はじめて「付喪神」という名前が登場したとされています。
付喪神とはどんな妖怪なのか
付喪神は長年使い続けた道具のうち、もう少しで神になるところだった道具が妖怪になったものといわれています。長年使い続けた道具が神になるには100年が必要とされていたのに対して、付喪神は99年使ったところで捨てられた道具が、あと少しで神になるはずだったという無念から妖怪になり、物を捨ててしまった人に災いをもたらすといわれています。付喪神の名前については解釈が分かれており、「付喪」が数字の「99」であるとされていることから、長い時間を示しているとされるという考えや、たくさんの種類がいる妖怪だから「99」をあらわす「付喪」がつけられたという考えもあります。付喪神を取り上げた文献資料が少ないため、正確なところはわかっていませんが、少なくとも物を捨てることを戒めるための存在であることは確実とされており、「もったいない」という考えを人々の間に浸透させる上で大きく貢献したと思われます。
付喪神と日本の風習
付喪神の話が生まれ、物を大切にするべきという考えが広まったことが影響したのかはわかりませんが、日本では物をなるべく大切に使うようにするという精神が一般化し、古くなったものを使い続けることや、使い古したものも別の手法で再利用する文化が生まれました。それと同時に古くて使えなくなったものを処分する際は、お炊き上げと呼ばれる行事を行うようになり、物によっては大々的なイベントとして大勢で執り行うことも増えたといいます。付喪神の考え方も大きく影響しており、付喪神が生まれると人の心を惑わして不幸を呼ぶとも言われていたことから、江戸時代に入ると古くなったものは一年のを終わりが近づいたときに、神社で処分することに決まっていました。現在でも日本の一部地域ではお炊き上げの風習が残っており、針供養や人形供養など、特定の物を対象にして祈りをささげる機会が用意されています。
現在も残る付喪神
日本の宗教観やよく言えばおおらかで、海外からもたらされた仏教を国境として取り入れつつも、他国とはまったく異なる考え方で発展させていき、キリスト教がもたらされても、完全にキリスト教に改宗するよう人は少なく、仏教を信仰しながらもクリスマスを祝うなど、取り入れたいところだけは取り入れつつ、自分たちにとって受け入れやすいものに形を変えるというスタンスを取っています。そのため古い慣習も時代が変わるごとに姿を変えることも多く、昔ながらの妖怪についての考え方も今では少し変わっています。もったいないという言葉は残っており、リサイクルなどの考え方も学校や親の教育を通して伝えるよう努力していますが、そのきっかけとして付喪神の話が伝わることはほとんどありませんでした。ところが最近はビデオゲームのモチーフとして使われたり、マンガやアニメで付喪神のキャラクターが登場したりと、古くから伝わる付喪神の話とは違う形で付喪神の存在が若い世代に知られることのほうが多くなっており、一部の作品には海外にも輸入されていることから、海外の若い世代が付喪神の存在を知る機会も生まれつつあります。
付喪神を通して「もったいない」の精神を知ることが出来た日本では、現在でも”もったいない”精神を伝え続けています。時代とともに付喪神は大きく変化を遂げていますが、これから先も付喪神ともったいないは日本で残り続けるでしょう。
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