
忍者(NINJA)という単語は侍(SAMURAI)や寿司(SUSHI)などと共に日本文化を代表する物として広く海外にも広く知られています。忍者の中でも、女性の忍者のことを「くノ一」(KUNOICHI)と呼んでいます。この言葉は、「女」という漢字の中に、ひらがなの「く」、カタカナの「ノ」、漢字の「一」の形が入っていることに由来します。また、「くのいちの術」という呼び方で、女性をしかけとして利用した仕事もあったと言われています。ちなみに、男性の場合は「男」という字の中に「田」と「力」が含まれているため「タヂカラの術」と呼びます。
そもそも忍者とは?
忍者とは、特殊な技能を備え、それを使った戦や諜報・偵察などを得意とした個人や集団を表します。鎌倉時代から江戸時代にかけて日本各地で活動していました。起源は飛鳥時代にまで遡り、農作物が育ちにくい険しい山奥で暮らしていた豪族が、その地形を活かして平地とは異なるゲリラ戦法や情報収集術を身に付け、それを利用して生業としたことに始まると言われています。戦国時代に入ると、その特殊な技能を大名や領主たちに買われ、傭兵として仕えます。諜報活動や偵察、破壊工作や暗殺などを行い、戦があれば得意のゲリラ戦法を使い足軽として参加することもありました。その多くが関西地方の伊賀や甲賀の出身と言われています。
くノ一は男忍者のように破壊工作や暗殺などは行いませんが、情報収集を行うためのスパイとして敵の屋敷や城に潜り込み活躍したと言われています。
くノ一の役割
映画や小説の世界ではくノ一は色仕掛けで男性に近寄り、相手を上手く翻弄しながら情報を引き出すように描かれますが、実際のくノ一は色仕掛けで男性に近寄ることはなく、より確実で、しかし手の込んだ方法を使って情報収集をしていたと考えられています。
くノ一となる女の子が年頃を迎えたら、敵のいる城や屋敷に下女・女中として送り込みます。くノ一はそこで働きながら様々な情報を見聞きし、仲間に報告をします。
くノ一からの報告を受けるメッセンジャー役には、屋敷を頻繁に訪れることができ、女性と接しても怪しまれない小間物屋や呉服屋が対応していました。また、奉公中は定期的に親元へ帰される休みをもらえるため、その時に情報を伝える事もあります。くノ一の家庭は親元も身元引受人も仲間の忍者で、周囲に溶け込みながら忍者としての諜報活動にあたっていました。そのため周辺住民からの信頼も篤く、一見すると忍者の家庭だと疑われにくかったそうです。
色仕掛けで男性を陥れるくノ一はまったくのフィクションだったようです。
くノ一が使った技
隠れ蓑(みの)の術
特に美しい女子は妾として敵の殿様がいる城へ送り込まれます。そこでもう一人別の忍を送り込みたい時に使われたのが「隠れ蓑の術」です。城内にいるくノ一が、親元から衣裳や家財道具を送ってほしいと口実を付け、許可をもらいます。すると大きな木でできた衣裳箱が送られてきます。この衣裳箱は底が二重になっており、中を開けると通常の衣類が入っていますが、その底には男の忍が姿を隠せるような仕組みになっています。こうして門番のチェックをくぐり抜けて入り込むことで、忍は城内で様々な活動を行うことができました。隠れ蓑の術は成功率が高い侵入方法だったとも言われています。
歩き巫女、武田信玄が利用したくノ一
日本各地で戦が勃発していた戦国時代、敵国を攻めるため、また自国を守るための情報収集は非常に重要でした。その役割をくノ一に与えていたのが甲斐の国の戦国大名、武田信玄です。
信玄の甥の妻であった望月千代女(もちづきちよめ)は甲賀流忍者の家系の出身でした。戦によって若くして夫を亡くしたところを信玄にくノ一としての腕を見込まれ、くノ一の養成をすることになりました。戦国時代、絶えず戦があちらこちらで起こっていたため、親を亡くした子供や捨て子が多く、千代女は彼女らを集めて巫女として育成します。当時の巫女は神社に所属する者だけでなく、日本各地を歩きながら祈祷などを行っていた「歩き巫女」がいました。千代女は彼女たちに呪術や護身術などを教え、1人前の歩き巫女に育て上げ全国へ送り出しました。歩き巫女となったくノ一は各地を廻る間に見聞きしたものを報告し、このようにして武田信玄は城内にいながらにして全国の様子を知る事ができたと言われています。
映画などで派手なアクションや色仕掛けを使った術で見る人を魅了するイメージの強いくノ一ですが、実際には女性であるという立場に合わせ、より効率的で確実な方法を用いて情報を収集する諜報活動のスペシャリストといった役割をこなしています。現代のイメージと大きくかけ離れていますが、くノ一は作り話ではなく実際に存在した職業なのです。
(noren Ichiro)
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