
原材料を知る事でわかる日本刀の強さの秘密
武士の魂と呼ばれ、また世界最高の刀剣とも呼ばれる日本刀。人によってその評価は様々ですが、日本人はこの日本刀製造に多くの知恵と労力を注いできたことは間違いありません。その一部を日本刀の原材料である玉鋼を通して考えました。
玉鋼とは
日本刀の原材料は玉鋼と呼ばれる砂鉄から精錬される、日本独自の鋼です。そしてこの玉鋼は日本独自の製鋼法であるタタラ吹きによってのみ得る事ができる希少な鋼なのです。科学的な研究と分析の結果、世界で最も純度が高い「世界一の鋼」と称されています。
タタラ吹き製鋼法
近代製鉄法による製鉄は鉄鉱石とコークスを溶鉱炉に入れ銑鉄を作り、この銑鉄を転炉に入れ鋼を作る二段階方式です。それに対してタタラ吹き製鋼法は、炉に砂鉄と木炭を入れ直接に鋼を作る一段階方式です。タタラ吹き製鋼法は純度の高い玉鋼を獲得する唯一の方法であるものの、その生産には非常に高いコストと労力が必要となります。
玉鋼200〜250kgに対して、砂鉄10〜12トン、木炭12〜14トンを必要とし、1回の操業は三昼夜を必要としたそうです。
タタラ吹き製鋼法は明治維新後に西欧から導入された近代製鉄法の普及により衰退するのですが、富国強兵に励む日本の当時の社会情勢を考えると残念ながら仕方がない事のように思えます。
タタラ吹きの作業
タタラ吹き製鋼法は炉を作る事から始まります。
粘土で作った炉の中で火を起こし、木炭を投入しては砂鉄を入れるという作業をくり返します。このときフイゴで風を送る事で炉内の温度を1400度以下に保つ事にタタラ製鋼法の特色があります。
現在の鋼法に比べ温度が低い低温精錬は不純な物質が鋼に入る事を防ぐことができるそうです。
低温で熱せられた砂鉄は酸素を奪われ純鉄になり、すぐに炭素を吸収し銑鉄となります。この銑鉄が溶けて炉の底に溜まります。
溶けた銑鉄の表面に風があたると、銑鉄中の炭素が燃焼し鋼となります。砂鉄と木炭を繰り返し炉に投入する事でこの鋼は次第に厚みを増していきます。
またこの間、炉壁の粘土は徐々に溶け出し鋼の純度を高める為の原料となります。
この作業を三昼夜続ける頃には炉壁に限界が訪れ、最終的に炉を崩して鋼を取り出します。取り出した鋼は2〜3.5トンの重さがありますが、玉鋼はその内の10分の1程度しかとれないそうです。
玉鋼の魅力
玉鋼の溶融過程は現在の科学研究でも已然として謎のままだそうです。
日本刀の原材料である玉鋼を生産していた職人達は、経験と工夫をたよりに何代にも渡ってこの製造技術を磨き上げていったと想像されます。
この職人の努力が積み重なった厚みのある歴史に玉鋼の魅力があり、日本刀の強さの秘訣があるのかもしれません。
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