
土のあたたかみを感じられる素朴さと、ぽってりした厚みが可愛らしい日本の陶器”益子焼(ましこやき)”。江戸時代より庶民のための日用品として広く使われていた焼き物ですが、最近ではその伝統を守りながらも、現代風のデザインを取り入れた若手作家よる作品が女性を中心に人気となっています。ノスタルジーと新しさをあわせ持つ、益子焼の魅力を紹介します。
益子焼とは
益子のふるさとは関東平野の北部、栃木県芳賀郡益子町です。江戸時代末期に笠間藩(現在の茨城県笠間市)で修行した大塚啓三郎が益子に窯をつくったことから始まりました。豊富な陶土を用いて水がめや壷、土瓶などが作られ、東京にも近かったことから普段使いできる道具として重宝されます。しかし、大正時代あたりから生活様式が変化し、それまで主な燃料として使われていた木炭が石炭ガスに変わったため、台所用品は高温に弱い益子焼からアルミなどの金属へと移ります。壷やカメも金属やガラス製のものになり、需要は低迷してしまいました。
このピンチを救い、それまでは日用品として捉えられていた益子焼を民芸品へと変化させたのが濱田庄司(はまだしょうじ)です。窯業を学び釉薬の研究に勤しむだけでなく、ロンドンで個展を開いて成功させた濱田が日本の焼き物を研究して最終的に辿り着いたのが益子焼でした。土と釉薬が優れ、昔ながらの製法を守っていたことが選んだ理由のようです。濱田によって益子焼の花器や茶器がつくられるようになり、益子焼は民芸品として全国に広がるようになります。現在ではおよそ250の窯元と50の陶器店があり、若手からベテランまでその作品や作風も様々です。
益子焼の特徴
ゴツゴツとした土の持つ質感がやわらかさやあたたかみを感じさせます。ぽってりとした厚みのある形状は素朴で愛らしいですが、その反面重い、割れやすいといった欠点もあります。しかし現在では薄くて軽く、扱いやすいものも増えています。
基本的な釉薬(ゆうやく)には主に5種類のものが用いられます。
・柿釉(かきゆう):熟れた柿のような赤茶色。芦沼石の粉末を原料としている。
・糠白釉(ぬかじろゆう):もみ殻を焼いた灰から作られ、乳白色になる。
・青磁釉(せいじゆう):深みのある青い色が出る釉薬。
・並白釉(なみしろゆう):焼くと透明になる釉薬。
・本黒釉(ほんぐろゆう):鉄分を多く含み、焼くと漆黒になる。
現在では益子焼で古くから作られてきた色合いやデザインの作品だけでなく、若手作家の中にはパステルカラーのやわらかい色合いのもの、新しいデザインを取り入れたものを製作する人もいます。伝統を守りつつも新しいものを生み出している益子焼は、様々なバリエーションが増えることによって選ぶ楽しみも増えますね。
益子町で陶芸体験をしよう
益子焼のふるさと、益子町には多くの作家さんが作品を作り、およそ50の販売店があります。その中には、実際に自分で土を触り轆轤(ろくろ)を回して本格的な陶芸体験のできる窯元(かまもと)もあります。じっくりと轆轤に向き合って、世界にひとつしかないオリジナルの益子焼を作ることができます。その他にも絵付けや手ひねり体験ができるところもあるので、時間があったら是非体験してみましょう。
[体験できる窯元]
(栃木県芳賀郡益子町益子3527-7、TEL 0120-696-864)
(栃木県芳賀郡益子町益子4264、TEL 0285-72-3223)
益子陶器市へ出かけよう
実際に作家さんが作った作品を自分の目で見たい、手にとってみたいという人は毎年ゴールデンウイークと11月3日の文化の日に合わせて行われる益子陶器市に出かけてみてはいかがでしょうか。1966年から始まった陶器市ではおよそ50の販売店の他に、500ものテントが立ち並び、食器などの日用品や美術品まで幅広い作品が販売されています。じっくりと作品を吟味できるだけでなく、作家さんたちと会話を楽しむこともできます。毎年春と秋をあわせると約60万人の人が訪れています。地元で収穫された野菜や農作物の他、名産品の販売なども行われています。
益子陶芸市(栃木県芳賀郡益子町益子1539−2)
(noren Ichiro)
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