
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」この有名な冒頭を、中学や高校で暗記させられた人も多いと思います。仏教的で暗いイメージを持たれてしまいがちな『平家物語』ですが、意外と読みやすく、心を打つラブロマンスや深い家族愛も随所にちりばめられています。日本人の精神性の気高さを描いた、日本文学の至宝である『平家物語』をぜひ、見直してみましょう。
『平家物語』 鎌倉時代の軍記物語。作者は信濃前司行長(しなののぜんじゆきなが)の説などあるが未詳。十二巻と灌頂巻(かんじょうのまき)からなる。伝本が多い。琵琶法師が語る「語り物」として発生し、さまざまな増補を経て、鎌倉中期に現在のような形になったと考えられる。平家一門の栄枯盛衰(えいこせいすい)が内容的な軸となり、全編が仏教的な無常観を基調として、叙情的に描かれている。また、貴族社会から武家社会へと変革していく動向と、新興の武士階級の生活倫理が生き生きとした人間像をとおして語られている。軍記物の代表作。 |
最後の王朝貴族で優雅な平家と、新興武士階級の源氏との争いを描いた『平家物語』は、能や歌舞伎などの古典芸能をはじめ、現代文学、映画、ドラマの題材となっています。豊富な逸話の中に沢山の人物が描かれていますが、とりわけ、平家の公達の魅力が際立っています。
平家の公達は美男揃い。優しくて教養があり、洗練されています。和歌や音楽のたしなみを持つ人が多いのも素敵です。歴女に人気の高い平家の公達の中から、印象深い五人の人物を選んでみました。九百年の昔に、こんなに魅力的な人々がいたのか?と、きっと理想の男性像を見つけることが出来るでしょう。
敦盛(清盛の甥)
誇り高き十六歳の美少年。横笛の名手。
平家の貴公子といえば、真っ先に思い浮かぶのが、美少年敦盛(あつもり)。一の谷の合戦で、海上に逃れようとした敦盛は、熊谷直実に呼び戻された。いさぎよく戻った敦盛を組み敷き、首を刎(は)ねようとした直実は、相手が自分の息子と同じ年頃の少年であることに驚く。あまりの美しさに刃を立てられず、逃がそうとしたが、敦盛は断りそのまま討たれた。その時腰に携えていたのが、名笛「小枝(さえだ)」であった。この後、直実は世の無常を感じ、出家する。
知盛(清盛の四男)
平家の総大将 「見るべき程のことは全て見た。」
平家の武将の中で最も尊敬を集めている人物。情けない兄宗盛に代わり、冷静な判断力を持った知盛(とももり)が実質的な総指揮官を務める。武勇はもちろん、知的で、武士の情けもある人格者。壇ノ浦で平家の敗北が決定的になった時、自ら船の中を掃除し、女官に冗談を言い、平家一門の末路を最後まで見届けたうえで海に身を投じた。最後の名せりふ「見るべき程の事をば見つ」は余りにも有名。
忠度(清盛の弟)
文武両道に秀でた大将、歌人として名高い。
『平家物語』の名場面として名高い「忠度都落ち」。一旦都落ちした忠度(ただのり)は、こっそりと引き返して、歌の師匠である藤原俊成を訪ねた。自作の和歌の巻物を師に託し、一首なりとも勅撰和歌集に入れて欲しいと頼む。平家滅亡の後、俊成は約束を果たし、『千載和歌集』に詠み人知らずとして、忠度の歌を載せる。
さざなみや 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの 山桜かな
(志賀の都の跡はすっかり荒れ果ててしまったけれども、山桜だけは、昔のままに美しく咲いているよ。)
辞世の歌
行き暮れて 木(こ)の下蔭を 宿とせば 花や今宵の 主(あるじ)ならまし
(旅をゆくうち日が暮れてしまい、桜の木陰を宿とすることになれば、花が今夜の主ということになるのだ。)
重衡(清盛の五男)
武勇にすぐれた美青年、和歌、琵琶、笛の名手。
牡丹の花に例えられるほどの美男子で、和歌や音楽に優れ、性格も明るい爽やかな好青年。宮中の女性の憧れの的であったが、不運にも、南都焼き討ちにより興福寺や東大寺を焼いてしまい、重衡(しげひら)は仏敵として憎しみの対象となる。生け捕りにされ、鎌倉に送られて頼朝と対面した後、処刑されてしまう。品格ある堂々とした態度は敵をも感動させた。妻との別れや、千手(せんじゅ)の前との音楽を通しての心の交流の場面が切ない。
教経(清盛の甥)
平家随一の猛将、義経のライバル。
能登殿と呼ばれる教経(のりつね)は平家一強い男。壇ノ浦の戦いでも向かう所敵なし。 教経は今日を最期の日と覚悟を決め、敵の大将義経を道連れにしようと、義経を探す。 義経の船を見つけて乗り移ったが、義経は「八艘(はっそう)飛び」で味方の舟に飛び移り、逃げてしまった。「もはやこれまで」と覚悟を決めた教経は、武器も兜も海へ投げ捨て、敵二人を両脇に挟み、海へ飛び込んだ。『平家物語』のクライマックスを飾る、二十六歳の死であった。
平清盛一族の全盛時代から、滅びてしまうまでを描いた『平家物語』には、上にあげた五人の他にも沢山の素敵な公達が登場します。日本人の心の財産でもある、『平家物語』の世界をのぞいて見て下さい。お洒落で優しい平家の公達との出会いが待っています。
(noren Rumiko)
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