
常に革新的で新たな世界を創り出し、2011年に惜しまれながら亡くなったスティーブ・ジョブズ。今までにない大胆なアイデアで人々を魅了し続けてきた彼と日本を繋いだものが「禅(ぜん)」です。ジョブズはカリフォルニア州の禅センターで禅と出会い、日本のお寺に出家しようとして止められたこともあったといいます。彼の哲学や美意識の根底には様々な思想や経営術と共に禅の教えも静かに流れていたように思えます。日本だけでなく世界的有名人にも影響を与えた禅とはどのようなものか紹介します。
禅の歴史
禅は大乗仏教の一派であり禅宗とも呼ばれ、南インド出身の仏教僧である達磨大師(ボーディー・ダルマ、もしくは菩提達磨とも呼ぶ)が中国に渡って始めたとされています。達磨大師は壁に向かって9年もの間坐禅を組み続けていたことから手足が腐って落ちてしまったという伝承があり、その話から日本の代表的な伝統工芸である「だるま」が生まれました。日本には鎌倉時代に栄西(えいせい)によって臨済宗(りんざいしゅう)が、道元(どうげん)によって曹洞宗(そうとうしゅう)が伝えられました。鎌倉時代から室町時代にかけて禅宗(禅)は流行し、今日まで残っている多くの日本文化に影響を与えています。
禅と日本文化の関係
剣道、柔道、弓道、茶道、書道、など、日本で古くからある「道」と名が付く伝統文化は禅の影響を受けているものが多くあります。禅とは何か、という定義についてはわかりにくい部分が多く、何十もの定義があると言われます。しかし、「道」の名の付く物事を見ると、その多くは心を静め、謙虚に自分を極めて高い境地を目指すといった共通点をみることができます。
同様に、室町時代に流行した石庭や枯山水式庭園も庭を眺めながら精神を集中させ一段高い場所を目指すための修行にも取り入れられています。有名な龍安寺の庭園では15個ある石がどの角度から見ても1つだけ見えない作りになっています。これは15という数字が東洋では完全を表す数字とされ、1つ見えない部分には「自分自身の足りないものを常に見続け、現在の自分に感謝しなさい」といった意味が込められているためと言われています。美術の世界でも水墨画が中国から伝わると共に、禅宗の僧たちがこれを描くようになり、雪舟 (せっしゅう)ら多くの水墨画家が誕生しました。
また、栄西によってもたらされた茶は禅宗の寺院を中心に薬として飲まれていましたが、広く普及するにつれて嗜好品として楽しまれるようになりました。その中で、禅の思想を取り入れ、俗な世界から離れた生き方を理想とした「侘び茶」のスタイルが確立されます。安土桃山時代には織田信長や豊臣秀吉の茶頭として活躍した千利休が茶室や茶道具、作法などを一体とした茶の湯を大成させたことで、日本の茶文化に大きな影響を与えます。
禅の修業の中で、座って精神を集中させる「坐禅」があります。坐禅を組むことには身体・呼吸・心を整え自分の中にある自己を自覚させる目的があります。集中力や何があっても動じない心を養うための坐禅は、現在では企業の研修などにも使われており、坐禅を組むことで考えや気持ちをリフレッシュさせる効果がある為人気があります。
(noren Taro)
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